廃棄物か、有価物か=総合判断説

廃棄物と有価物のボーダーライン

廃棄物と有価物のボーダーラインはどこにあるでしょうか。
従前では、廃棄物は、「排出実態等からみて客観的に不要物として把握することができるもの」とされ、つまり、見れば判るものとされていました。

この考え方では、一度廃棄物とされた後はずっと廃棄物のままとなり、リサイクルの促進が妨げられます。
その後、「総合判断説」と呼ばれる考え方が提示されたことで、非常に判断が難しいものとなりました。

総合判断説では、 「行政処分の指針について 令和3年4月14日 環境省」によって、以下の5つの判断基準が設定されています。

判断基準 その内容
その物の性状 品質が利用用途に合っており、かつ飛散や流出、悪臭等がないか 。
排出の状況 計画的に排出されており、適切な保管・品質管理がされているか。
通常の取扱い形態 製品として市場が成立しているか。
取引価値の有無 受け取る側に対し、有償で引き渡されているか。
占有者の意思 占有者に適切な利用、または他人に有償で引き渡す意思があるか。
総合的に判断する

廃棄物か有価物かは、難しいのは、原則的にこれら5つの要素を「総合的に判断する」という点です。
具体的な例として、「おから裁判 最高裁判所平成11年3月10日判決」、「水戸木くず裁判 水戸地方裁判所平成16年1月26日判決」があります。

  • おから裁判 ~ 食べ物か、産業廃棄物か?
    豆腐を作るために大量に排出された「おから」を、都道府県の許可なくお金をもらって引き取っていた事業者が、産業廃棄物収集運搬業および処理業の無許可営業とされた事案。
     ・おからは非常に腐敗しやすく、不適切な処理をすれば悪臭などを放つ。
     ・有効活用されているおからは全体のごくわずかで、大半は有料で産業廃棄物業者に処理を委託されている。
    最高裁は、「その物の性状」「通常の取扱い形態」から、おからを廃棄物と判断しました。
    したがって、おからを取り扱うには、産業廃棄物業の許可を取得しなければなりません。(視点を変えれば、本来再利用ができる「おから」は廃棄物であると判断されたことで、許可を取得するまでは有効活用できないということ。)

  • 水戸木くず裁判 ~ 材木か、木くずか?
    排出業者が家屋の解体工事から出る木くずを選別し、ある業者にお金を払って引き取ってもらい、チップに加工・販売する事業を展開していた。
    しかしこの引き取った業者の工場は産業廃棄物処理業許可を取得していなかったため、無許可営業として起訴されたが、木くずは廃棄物ではないとされた事案。
     ・排出業者が選別して引き渡していた木くずには、チップの原料としての価値が認められる。
     ・木くずのほとんどがリサイクルされている。
    水戸地方裁判所は、「通常の取引形態」「占有者の意思」を考慮し、「受け入れた側の業者が有料で引き取ったからといって、必ずしも産業廃棄物とはいえない」「やり取りされているもの(この場合は木くず)が、当事者間で価値や利益を生むものと考えられているかを検討するべき」という見解を示した。

5つの判断基準のうち、ある基準で廃棄物だったとしても、他の基準に照らした場合に有価物となる可能性があります。逆も然りです。
水戸木くず裁判の判決文では、「工場に搬入する段階では、分離ないし処理されて有用物になったと認められる、ないしは、少なくとも、同段階においていまだ産業廃棄物であったとの立証はなされていないと認められる」ということで、廃棄物であるとの立証が不十分だとしています。
つまり、積極的に有価物であると認めているわけではないのです。
無許可営業は、5年以下の懲役か1,000万円以下の罰金、あるいはその両方を科せられる場合がありますので、廃棄物と有価物の違いは十分に留意する必要があります。
このように、「廃棄物と有価物」の問題は、判断が難しいところがあるため、具体的な取扱いについては区域を管轄する市町村に相談する必要があります。


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