感染症による工事一時中止と財政法の特例

行政書士試験では、財政法は一般知識等で出題されるので、皆さん、学習した記憶がありますよね。
過去には、財政法による予算の定義の出題(予算は、一会計年度の間のみ通用し、数年度にわたって支出されることは許されず、例外は認められない)もありました。

昨日、国土交通省ではより、新型コロナ ウイルス感染症(COVID-19)対策として、「感染防止で国直轄工事を一時中止や工期延長」を発表しました。
一時中止しますと、中止期間分の日数に相当した分だけ工期を延伸するののが通例ですが、今の時期の工事はほとんどが年度末(3月31日)なので、実質、工事が年度内に終わることはほぼ不可能となります。
記事では、「工事が年度内に終わらない場合は繰り越せるようにする」としていますが、これは国交省というより、財務省として財政法の「歳出予算の繰越し対応」となってきます。
「歳出予算の繰越し」とは、国の会計制度の中において、歳出予算の効力を翌会計年度にまたがって移動させる特例的な制度です。

財政法第42条本文において、「毎会計年度の歳出予算の経費の金額は、これを翌年度において使用することができない」と規定されています。
つまり、会計年度独立の原則は、「一会計年度の歳出予算の支出のすべてをその年度内に終わらせて、次年度に関係させない」ことを理想とするものと考えられます(財政法第12条、第42条本文)。
しかし、国の経費の内容や予算執行のすべてを、この原則どおりに処理することは、かえって実情に沿わないことになる場合を考慮し、財政法は、会計年度独立の原則に対して若干の例外を認め、一定の条件のもとに、本来ならば「不用」とすべき歳出予算の経費の金額を翌会計年度に繰り越して使用することを認めています。
これが歳出予算の繰越しの制度です。
なお、歳出予算の繰越しの制度は、会計年度独立の原則に対する特例であって、無制限に認められるものではありません。
現在、繰越しとして認められているものには、
①明許繰越し
②事故繰越し
③継続費の年割額の逓次繰越し
④特別会計に関する法律の特別規定による繰越し、
の4種類があります。
今回の措置は②事故繰越しの手続を国土交通省より財務省に行うものと思われます。

事故繰越し(財政法第42条ただし書)
年度内において支出負担行為を行い、その後の避け難い事故のため、その年度内において支出が終わらなかった場合。(年度末(3月31日)までに工事等が完成しなかったことで年度内に支出を終わらない場合が想定。)
①年度内に支出負担行為がなされているものであること
②避け難い事故のために年度内に支出を終わらないものであること
の2つの要件を全て満たすことが必要です。
この「避け難い事故」の範囲については、法令上明確にされていませんが、社会通念上避け難い事故と判断されるものでなければならないものと考えられます。
そして、「事故」という言葉は、ものごとの正常な運行を妨げるような出来事の意味に解され、一般に事由という言葉より狭い意味であるといわれています。
暴風、洪水、地震等の異常な天然現象によるものはその代表的なものということができますが、地権者の死亡、工事中の崩落事故による中断、債務者の契約上の義務違反、労働争議、戦乱等により真にやむを得ず年度内に支出を終わらなかった場合なども「事故」に該当するものと解されます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、もちろん前例がないことですが、この「事故」と同義として対処する方針と思われます。

2020年02月29日